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RikoSueki-SeminarReport

RikoSueki-Zemireport

ゼミ論発表用: 「韓国における住所体系の変化に伴う現状と課題」

青山学院大学 地球社会共生学部 地球社会共生学科

末木理子/ Riko Sueki

学生番号 1A122099

指導教員 古橋大地 教授

©︎Furuhashi Laboratory/Riko Sueki, CC BY 4.0

Introduction

韓国では、2014年に新たな住所体系「道路名住所」が導入され、従来の地番住所から大きな転換が図られた。この政策は、地番を基準とした従来の住所体系が直感的でなく、位置の特定が難しいという課題を解消するために実施されたもので、郵便や物流サービスの効率化、さらには行政業務の合理化を目指した取り組みである。地番住所は土地所有や税務管理には適していたものの、日常生活における利便性には乏しく、住民にとって位置を特定するのが困難であった。これを改善するために採用された道路名住所は、直感的な住所表記を可能にし、国際標準にも適合するという利点をもたらした。一方で、住所の統一性の欠如や住民の混乱、広報不足による定着率の低さといった新たな課題も浮き彫りとなった。本研究では、道路名住所制度の導入背景を整理し、制度が住民に与えた社会的影響を分析する。また、現行の課題を明確にし、今後の改善策を提案することで、韓国の住所体系改革に関する実践的な知見を提供する。さらに、韓国の事例を基に、日本における住所体系改革の可能性についても議論する。

Methods

本研究では、韓国における道路名住所制度の導入とその影響を分析するため、文献調査および既存の統計データを用いた二次データ分析を行う。特に、本制度の導入がもたらした 行政効率化、住民の適応状況、文化的影響、都市計画への影響 について、多角的に検討する。

  • 道路名住所制度の導入背景と行政効率化の影響
    • 道路名住所制度の導入背景と行政効率化の影響道路名住所制度が導入された背景とその目的を整理するため、지종덕(2005)の研究を参考にし、制度の設計意図や行政効率化に与えた影響を検討する。
    • 道路名住所制度が都市計画や公共施設の立地適正性に及ぼす影響について検討するため、정승현(2014)の新住所地図を活用した仁川市の都市公園立地適正性に関する研究を参考にし、新制度が都市開発やインフラ整備にどのような影響を与えたのかを分析する。
  • 住民の適応状況と実際の使用率
    • 住民の道路名住所制度に対する認識と実際の使用状況を分析するため、민웅기(2019)による道路名住所の使用実態に関する実証分析を活用する。
    • 경기연구원(2019)の調査データを参照し、住民が道路名住所をどのように認識し、どのような場面で使用しているのかを検証する。
  • 道路名住所制度の課題と社会・文化的影響
    • 住所制度の変更が地域社会に与えた文化的・歴史的影響については、최유식(2017)の批判的地名学的分析を基に、伝統的な地名の消失や地域アイデンティティの変化について考察する。
    • 制度施行後の混乱や課題については、이혁(2018)の記事をもとに、住民の適応状況や社会的影響を考察する。
  • 改善策の検討
    • 道路名住所制度の定着を促進するための改善策を検討するにあたり、「도로명주소 정착을 위한 개선과제」【道路名住所定着のための改善課題】(경기연구원, 2019)の報告書を参照し、行政・企業・住民それぞれの観点からどのような対策が求められるかを分析する。

Results

  • 住民の認識と適応状況
    • 道路名住所の認知度は58.2%であるが、実際に道路名住所のみを使用する住民は18.8%にとどまる
    • 飲食配達分野では、60.4%が依然として地番住所を使用しており、新住所の普及が進んでいない
    • 道案内では40.8%が従来の住所を使用しており、新住所の活用が住民の日常生活に浸透していないことがわかる。
  • 文化的・社会的影響
    • 伝統的な地名が消失し、住民のアイデンティティに影響を及ぼしている
    • 道路名が長すぎて覚えにくいという問題もあり、住民の混乱を招いている
  • 地域間の格差
    • 都市部では制度の定着が進んでいるが、地方部では地番住所との併用が続いている
    • 地方では建物番号の設置が不十分であるため、住民にとって新住所の使用が困難。

Discussion

本研究の結果から、韓国の住所体系改革は、行政効率や利便性の向上に一定の成果を上げたものの、住民の適応や社会的・文化的影響、地域間格差といった課題を抱えていることが明らかになった。

  • 住民の適応度の低さ
    道路名住所制度は、位置情報の標準化を目指して導入されたが、住民の適応度は依然として低い。調査では、新住所の認知度が58.2%である一方、実際の使用率は18.8%にとどまる(경기연구원, 2019)。高齢者層や地方住民にとって、従来の地番住所のほうが馴染み深く、新住所の形式が理解しにくい点が大きな課題となっている。また、旧住所との併用が続いたことで、行政文書や郵便物の誤配送が発生し、住民の混乱を招いている。また、旧住所で登録された不動産情報や商業登記の変更手続きが遅れ、制度の完全な定着を妨げている。
  • 文化的・社会的影響
    新住所制度への移行は、地域社会の文化やアイデンティティに影響を及ぼした。特に、伝統的な地名が新住所表記で置き換えられることで、住民の地理的アイデンティティが希薄化したことが指摘される(최유식, 2017)。観光地では、従来の地名が観光ガイドブックや地図に掲載されているため、新住所との整合性が取れず、観光客が道案内に混乱するケースが多発している。特に、地元で親しまれていた通り名が公式な住所表記と一致しない場合、観光産業への影響が懸念される。この問題は、単に利便性だけではなく、地域の文化的価値の喪失を防ぐ制度設計の重要性を示唆している。
  • 地域間格差
    都市部では制度の普及が進む一方、地方部では建物番号の設置不足や行政の対応遅れにより、新住所の使用が進んでいない(경기연구원, 2019)。この格差は、制度の全国的な効果を制限しており、地方自治体への支援や特化型施策が求められる。
  • 日本への応用可能性
    韓国の事例は、日本における住所体系改革を検討する際にも重要な示唆を与える。日本では災害時の迅速な対応が求められるが、道路名住所制度は位置情報の標準化により、救急・消防活動の効率化を図る可能性がある。また、観光産業において、外国人観光客に分かりやすい住所表記を提供することで利便性を高めることができる。ただし、韓国で直面した課題を踏まえ、地域文化を尊重し、住民が容易に受け入れられる柔軟な制度設計が必要である。

Conclusion

本研究では、韓国の道路名住所制度の導入とその影響を分析し、以下の課題を明らかにした。

  • 住民の適応の遅れ
    高齢者や地方住民にとって新住所の理解が難しく、旧住所との併用が混乱を招いている。
  • 文化的・社会的影響
    伝統的な地名の消失により、地域アイデンティティが希薄化し、観光業にも影響を与えている。
  • 地域間格差
    都市部では普及が進んだが、地方では建物番号の設置不足や行政の対応遅れにより、新住所の利用が定着していない。

これらの課題を解決するには、住民向けの教育や広報活動の強化、地域の文化を考慮した制度設計、地方自治体への支援が不可欠である。


日本への示唆と活用可能性
韓国の事例は、日本の住所体系改革においても、住民の適応を促進する方策や地域文化の維持を考慮する上で有益な示唆を与える。特に以下の点が注目される。

  • 災害対応力の向上
    簡潔な住所表記は、緊急時の位置特定を迅速化し、救急・消防活動を効率化できる。
  • 観光産業の利便性向上
    外国人観光客に分かりやすい表記を導入することで、観光地での利便性を向上できる。
  • 地域文化の保護と発展
    従来の地名を保持しつつ、標準化された住所体系を導入することで、地域の文化と利便性を両立させることが重要である。

今後の課題と提言
韓国の事例を踏まえ、日本や他国で住所体系改革を行う際には、以下の対応が求められる。

  • 住民参加型の制度設計
    住民の意見を反映し、地域に適応した制度を設計する。
  • 試験的導入と効果検証
    都市部や観光地などで試験導入し、効果を検証した上で全国展開を検討する。
  • デジタル技術との統合
    新旧住所を変換するツールの開発や、ナビゲーションシステムとの連携を強化する。

韓国の道路名住所制度は、行政効率化や物流の迅速化に一定の成果をもたらしたが、住民の適応や地域の文化・社会的価値への影響、地方格差といった課題が残った。この教訓を活かすことで、日本や他国においても、地域性や文化を尊重しつつ利便性を高める住所体系改革を進めることが期待される。

参考文献リスト

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